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福岡地方裁判所 昭和42年(わ)137号 判決 1968年3月28日

本籍

福岡県大川市大字上白垣二二七番の一

住居

福岡市白金一丁目四街区の二

バー経営

古賀善人

大正八年一月九日生

右の者に対する旧所得税法違反被告事件につき、当栽判所は検察官近藤幹雄出席のうえ審理を終え、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金二〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間労役場に留置する。

但し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三八年から昭和三九年まで福岡市中洲において、「バーエシンバラ」「バーウインザー」「バーイングランド」「バー京子」(右期間中に「バーつぼみ」「バースコツトランド」と順次改称)の四店舗において、バー経営を業としていたものであるが、右業務に関し、売上を除外する等して所得を脱漏するほか、所得を分割しその一部を他人名義で申告する等の不正の方法により所得税を免れようと企て

第一、昭和三八年分の所得金額は一三、六四七、四四四円で、これに対する所得税額は六、〇三八、五七〇円であつたにかかわらず、別表(一)記載のとおり、昭和三九年三月一二日より同月一六日までの間所轄博多税務署長に対し、所得を全体として過少にし、しかも前記「エジンバラ」のみを自己名義とし、その他各店はそれぞれ他人が経営しているように装つて所得を分割した虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当所得税額と申告所得税合算額九九三、一二〇円との差額五、〇四五、四五〇円を逋脱し

第二、昭和三九年分の所得金額は二〇、三六三、二八〇円で、これに対する所得税額は九、六五〇、八二〇円であつたにかかわらず、別表(二)記載のとおり、昭和四〇年三月一四日より同月一五日までの間所轄博多税務署長に対し、前同様の方法をもつて虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右正当所得税額と申告所得税合算額一、七三九、一三〇円との差額七、九一一、六九〇円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の検察官に対する各供述調書

一、被告人の収税官吏大蔵事務官に対する各供述調書

一、被告人作成の各上申書

一、吉永テイの検察官に対する供述調書

一、古賀菊枝、古賀頼蔵、富田浩男、吉永徳行、古賀善人(但し被告人の甥の子供、記録一一〇九丁)、猪口照夫、中村虎雄、富山ミツ、吉永亀夫、原田数雄、奥田正三、堺喜三郎、北島庄次、吉永テイの収税官吏大蔵事務官に対する各供述調書

一、大蔵事務官山本秀雄作成の昭和三八年分所得税の脱税額計算書と題する書面

一、右同人作成の昭和三九年分所得税の脱税額計算書と題する書面

一、古賀善人作成領置物件還付受領証(確認証、古賀善人自宅領置定期明細添付)

一、大蔵事務官作成現金、預金、有価証券現在高検査てん末書六通

一、武藤隆一、河添長次郎、渡瀬謙治、飯尾万喜三、内海豊、桑野増生、中村人三、八尋明、土屋満、岸信子、徳永明、遠藤大治郎、福島正俊、川本真太郎、内田宗之助、金子道雄、樋谷信近、堀定良、段上勲、鮭川徳右衛門、瀬頭忠治、重川春太郎、山根藤市、吉田次郎、川原俊夫、浜本豊、伝島初、篠原雷次郎、大西啓輔、三輪正夫(二通)、井手隼二、藤井勉、与倉利、喜多村広利、松尾磯槌、田代正男、小金丸義太郎、吉嗣正喜、石坂博和、栗山義弘、重川豊香、清田定、吉田亨、佐野馨、坂田茂助、桑野英刀、白川朝生、光安甲斐太、正木恩、高木広之助、浅利義治、平井英祐、土屋レコードシヨツプ、中村虎雄各作成の上申書

一、中村義彦、田尻淳一郎(二通)、益田肇、柳原弥之助、松本攻(二通)、加茂川仁己(五通)、永淵忠喜(二通)、富尾治郎、金子英一郎(二通)、黒川勉(二通)、株式会社正金相互銀行各作成の証明書

一、池尻正二作成の保険料収納金額証明書

一、川庄喜勝作成の使用料金収納状況の証明書提出方依頼についての回答と題する書面(証明書添付)

一、阿部源蔵作成の市税の収納状況について(回答)と題する書面

一、中島学美作成の納税証明書四六通

一、博多税務署長作成の徴収簿(カード)の謄本の送付についてと題する書面(カード二〇枚添付)

一、博多税務署長作成の源泉所得税調査簿の謄本提出についてと題する書面(調査簿四枚添付)

一、博多税務署長作成の課税事績の送付についてと題する書面

一、三八年分の所得税の確定申告書(バーエジンバラ、古賀善人)(昭和四二年押第一〇九号の一)

一、右同(バーワインザー、吉永ツギエ)(同号の二)

一、三八年分の所得税の損失申告書(バーイングランド、吉永テイ)(同号の三)

一、三八年分の所得税の確定申告書(バー京子、古賀頼蔵)(同号の四)

一、右同(バーつぼみ、村上章子)(同号の五)

一、三九年分の所得税の確定申告書(バーエジンバラ、古賀善人)(同号の六)

一、右同(バーウインザー、吉永ツギエ)(同号の七)

一、右同(バーイングランド、吉永テイ)(同号の八)

一、右同(バースコツトランド、村上章子)(同号の九)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は

(一)  本件起訴にかかるバーエジンバラ外三店舗は被告人の単独経営ではなく、吉永テイとの共同経営であるから、それよりあがる収益も折半して両者に帰属することになるので、その収益を被告人一人の所得として課税することは不当であり、公訴事実記載のほ脱税額は誤つている。

(二)  被告人は四店舗の収益を合算して確定申告しなければならないことを全く知らなかつたので、各店舗の名義人の名において各別に確定申告をしたのであるから、公訴事実中右各店舗別に確定申告をした分についてはほ脱罪は成立せず、これと他のほ脱部分が明確にされない以上被告人は本件につき無罪である。

と主張するので順次判断する。

前掲各証拠を総合すると、

昭和三四年二月頃、当時吉永テイが経営していた「バーテイ」を整理した金と吉永テイの手持金合わせて約四〇〇万円に、被告人が銀行より借り入れた金約四〇〇万円をもつて、被告人と右吉永テイは共同して、「バエジンバラ」を開業し、被告人は主として金融、経理その他対外的折衝の仕事を、吉永テイは主として営業の実際面をそれぞれ担当して、両者協力して業績をあげ、その後バー経営により得た収益金と借り入金により、順次三店舗を開設するに至つたのであるが、各店舗は被告人、吉永テイ、吉永ツギエ、古賀頼蔵(村上章子)をそれぞれ営業名義人とし、一店舗一名義となつていること、各店舗の収益金は閉店後いずれも被告人のもとに集められ、金銭関係はすべて被告人において、統轄、管理しているほか、税金関係、金融関係等対外的にはいずれも被告人がその渉に当つていること、被告人と吉永テイはバーエジンバラ開設当時より、事実上夫婦の関係にあり現在に及んでいること等の事実を認めることが出来る。

右認定したところによると、バーエジンバラ発足当時において、被告人と吉永テイの共同事業の形において始まつており、その後両者の協力により発展して、本件各犯行当時に及んでいることは弁護人主張のとおりであつて、吉永テイは勿論単なる使用人ではなく、実質的には本件各店舗につき被告人と共同経営者的立場にあるものと認むべきであるが被告人と吉永テイとは事実上の夫婦関係にあり、同居のうえ経済面を含めて同一家族としての生活をしているものであるから、両者の関係は通常の個人事業体における夫婦関係と何等選ぶところはない。なる程被告人には別居中の正妻と子供があり、吉永テイが法律的に不安定な立場にあるため、将来両者間に破たんを生じた場合、吉永テイにおいて、少くとも半分の権利を主張すべき資格がある等の問題は残されているとしても、それは両者間の内部的問題であつて、被告人と吉永テイの関係の実態が前述のとおりである以上、本件四店舗につき、被告人の個人営業と認定して、課税することは何等実質課税の原則に反するものではない。

次いで、被告人が四店舗の収益を合算して申告しなければならないことを知らなかつたとの主張について判断する。

前掲各証拠特に被告人の検察官に対する昭和四二年三月二日付供述調書及び古賀頼蔵、猪口照夫の大蔵事務官に対する各供述調書によれば、被告人が吉永テイとの共同事業としての意識は別にして、同一経営として四店舗の収益を合算して申告すれば累進課税のため著しく税額が高くなることを避け、各店舗毎に営業名義人による確定申告をなし、正当なる課税を免れようとしたものであることは明らかである。

従つて被告人名義においてなした「バーエジンバラ」以外の他人名義でした所得の確定申告は正当なものとは認められないので、これを被告人の正当な所定の確定申告と認めなかつた措置は相当と言わなければならない。

なおその余の弁護人の主張はいずれも被告人が分割申告したことにつき悪意のなかつたことを前提とするものであるが、被告人が分割して所得の確定申告をしたのは脱税目的であつたことは前述のとおりであるから、この点において既に前提を欠くことになるので、爾余の判断をするまでもなくいずれも失当である。

叙上のとおり弁護人の主張はいずれも採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は旧法人税法(昭和二二年法律第二七号)六九条一項一号、所得税法の一部を改正する法律(昭和三九年法律二〇号)附則二条、所得税法(昭和四〇年法律三三号)附則二条、三三条、所得税法の一部を改正する法律(昭和四一年法律三一号)附則二条、所得税法の一部を改正する法律(昭和四二年法律二〇号)附則二条、二一条に各該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条、一〇条により、犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、罰金刑につき、同法四八条によりその合算額の範囲内で、被告人を懲役八月及び罰金二〇〇万円に各処し、被告人が本件検挙後当局の調査等にも協力し、改悛の情も顕著で、既に本件による追加税等概ね支払い済であることなど諸般の情状を考慮し、同法二五条一項により、本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石破竹郎 裁判官 野曽原秀尚 栽判官 福永正子)

別表(一)(昭和三八年分)

<省略>

別表(二)(昭和三九年分)

<省略>

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